本当にあった復讐の話

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【88話】精神崩壊

俺は高校時代、同じテニス部だったA、Bと特に仲が良く、よくつるんでいた。
3人とも、嬉しいことも辛いことも打ち明け合い、信頼し合っていた。
大学に進み、俺とAは地元名古屋の大学に、Bは大阪の大学に進学したが、
それでも年に5回くらいは会って遊んでいた。
そして今年。A、Bと付き合いだして5年以上経ち、文系法学部のAは大手企業に就職が決まり、
理系で工学部のBと俺は大学院への進学が決まった。
全員進路が決まり、落ち着いたということでいつものように
遊んでいた春の終わり頃、Bがいそいそと切り出した。


「なんか今、嫌がらせみたいなことされてるんだよね」

聞けば、2ヶ月ほど前から携帯に無言電話がかかってきたり、名古屋にある実家を撮影した写真、
B本人の写真を燃やしたものがポストや玄関前に散乱していたりするという。
あまりの過激さに俺は言葉を失っていたが、
Aは 「何でもない風にするのが一番いいんじゃないか?それが嫌ならアパート変わったりはできないの?」
と適格なアドバイスをしていた。

しかし、引越しするような資金はない、ということで、結局無視を決め込むということに。
俺とAは「大丈夫。俺たちがついてるから大丈夫」と勇気づけ、その時は別れた。
しかし、しばらくしてBは2年も付き合っていた彼女に浮気されて捨てられ、
更に嫌がらせの手は実家にまで伸び、赤い封筒でBの写真をズタズタにしたものが届いたという。
また、Bの母親宛てに送られてきた封筒には、父親の不倫の証拠写真が入っていたそうで、
元々おしどり夫婦だったというBの両親の夫婦仲は最悪になってしまった。

いよいよBは精神的に追い詰められ、覇気のない表情になっていった。
元々とても純真で真っ直ぐな性格だったBが、傷ついてボロボロになっていく姿が痛ましくて仕方なかった。
しかし、もう大学4年の後期ということで研究の方も忙しく、
俺もBも以前ほどは自由な時間が取れなくなっていた。
そこで、法学部で卒業単位数は他の文系より多いものの、比較的時間の自由がきく
AがBの元に行き、 元気づけようと励ますというような日々が続いていた。
Bも、「Aがいるからまだ頑張れる」と弱弱しくも言っていた。
今年も10月に入り、たまたま俺とBのゼミの休みが重なり、
翌日から連休で、Aもバイトがないということで、Bの大阪のアパートに行った。
お彼岸の時期には彼岸花が玄関前にたくさん置いてあってゾッとしたというBの顔は、
すっかり憔悴しているようだった。

少しでもBの気を晴らそうとUSJに行ったり、梅田で買い物をしたりしてはしゃいでいた。
Bも遊んでいる間は楽しそうに見えた。
だが、夜になってBの家に戻ると、Bは泣き出してしまい、
俺とAは必死でなだめて、ああでもないこうでもないと解決策を話し合っていた。


連休最終日、一通り遊びきり、辛いことも吐き出したせいか、Bは少し穏やかな表情になっていた。
俺はひとまず安心して、「そろそろ帰ろうか」と切り出そうとしていた。
するとAが「彼女、浮気したって言ったよね?どんな人?」と静かに呟いた。
馬鹿!何無神経なこと聞いてんだ!と思ったが、案の定落ち着いていた
Bの表情はみるみる歪み、「知らない」と答えた。
「そっか、まあそりゃ言えないよね、向こうも」Aの言葉は淡々としていた。
「もう忘れたいんだからその話はやめてくれ」Bは涙声になりながら弱々しく言った。

俺もAに、「お前なに蒸し返すようなこと言ってんだ!」と一喝したが、
Aは今まで見せたことのない冷たい目で俺に一瞥を投げた。
「まだわかんねえのか?」突然冷たくなったAがBに言う。
「元カノと浮気したの俺なんだよ」


「それだけじゃないよ。お前の周りでおこったことは全部俺がやったんだ」
言葉が出なかった。というより、意味がわからなくて頭がついていかない。
「嘘だよな・・・?」Bの顔は引きつっていた。
「嘘じゃないよ、事実色々起こったじゃん」Aは悪びれる様子もなかった。

「何でそんなこと言うんだよ・・・俺が傷ついたのを見て、満足して止めてくれればいいのに。
なんでわざわざ言うんだよ!」Bは悲しみと怒りが混じった声でAに詰め寄る。
Aは突然クスクスと笑い出した。
「何でって・・・言わなかったら、その情けない顔見られないだろ?」
俺ですら頭をゴンと殴られたような気分がした。
「じゃあ、お大事にね」Aは笑いながらそう言い放つと、去って行った。
俺とBは呆然としていたが、しばらくするとBは「嘘だぁ!」と泣き喚き、暴れだした。
放っとくわけにも行かないが帰らないわけにも行かないので、
Bの大学の友達に連絡し、後を任せて俺も帰路についた。
何度もAに電話したが、Aは電話を取らなかった。
Aはイケメンで成績優秀、テニスも上手く女子からの人気も高かった。
震災によって超氷河期と言われた就活も難なく成功させており、
俺はAの人生は順風満帆だと思っていた。
そんなAが何故あんなことをしたのか、皆目見当がつかなかった。

それから一週間後の土日、Bが俺を訪ねてきた。一段と痩せてしまったBがSDを取り出した。
例のことがあった2日後に届いたという。ノートパソコンでデータを開くと、音声データが入っていた。


そこには俺たちの会話が記録されていた。会話の途中から記録されていたし、
携帯で録音したような音質だったが、はっきり聞き取れた部分があった。
『B「・・・でもさ、親に捨てられたとか、親に虐待された人って、そこで人生コケてるよね」
俺「そうか?(笑」
B「だって、一番愛されるべきとこで愛されてないんだよ?親いないと学校で苛められたりとかするし、絶対歪むことない?(笑」
俺「まあ、確かになぁ」
B「結婚して子供作って幸せな結婚生活とか絶対無理っしょ。不幸になる人の典型だよな(笑」・・・』
Bはこれいつの?と言っていたが、俺は覚えていた。
3人で和歌山の温泉旅館に泊まったとき、彼女が出来たてで浮かれていたBが、
普段はしないような幸せアピールや上から目線の発言をしていた。
その会話の中で、Aの声は聞こえなかった。
確かにちょっと気に障る発言ではあったが、
これが理由であそこまでするだろうかと、俺は腑に落ちなかった。
Aに何があったのかと、A宅を訪ねると、Aは近くの病院に入院していると隣人が教えてくれた。
病院に行くと、そこには点滴やら何やら色々つけて眠っているAと担当医、
精神科医、児童擁護施設の職員と名乗る人がいた。
話によると、睡眠薬の大量摂取が原因で運ばれたとのことだった。
俺は自分がAの親友であると明かし、事の一部始終を彼らに説明した。
色々話を聞いたところ、驚くべきことがわかった。

Aの実父はAが5歳のときに蒸発、その後3年間母親と暮らしたが、母親に虐待を受けたため、保護された。
その後短期間の施設での生活を経て、現在の家に引き取られ、後に養子になったと言う。
上手くやっていたのだが、引き取られた先の養父が、2年半ほど前に病死してしまったとのことだった。
そしてA自身も、高校生の頃、突発性難聴とそのストレスからか
胃潰瘍を患い高3の夏休みに治療していたが、精神的に不安定になり、
精神安定剤や睡眠薬を使っていたと聞かされた。
これらのことと合わせると、>>147でのBの発言が、
Aの心に深く突き刺さったということが察知できた。
平凡に暮らしてきた俺からすれば、「言ってくれればよかったのに」とか、
「『そういう言い方やめてくれ』とか言えばいいのに」とか
思ってしまうが、そういう問題ではなかったんだろうか?
何でも知り尽くしていると思っていたAのことを全然知らなかったという事実に、俺は衝撃を受けていた。
Aと話し合うべきなのか、Bに本当のことを告げるべきなのか、
そして彼らと今後どのように付き合っていけばいいのか、
正直今はわからないでいる。

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